インフォームドコンセント
インフォームドコンセントとは、「説明と同意」という意味です。治療や手術について医師が患者に十分な説明をし、患者はその説明に納得して同意することをいいます。インフォームドコンセントは、1972年に米国病院協会が提唱しました。
すべての医療行為が施される時、医師はその治癒を目的として最善の治療を行います。その治療方法や手術方式、投薬方法、また、術後の合併症、副作用、再発率、使用薬剤、リスクなどを告知する義務を持とうという意味から生れました。
わが国では、ひと昔前まで、医師は先生様であり、患者は医学知識を持ちあわせていない存在と見なされていました。ところが、度重なる医療過誤や最先端医療の導入、また、マスメディアの報道やインターネットの急速な発達などにより、一般の人たちにも高度な医療情報がもたらされるようになりました。
医療従事者側としても、医療情報を公開する必要性が高まってきたのです。そのため、インフォームドコンセントやカルテの開示などが実現し、医師と患者の関係は、よりフラットでオープンになっていきました。
しかし、「専門医"看板倒れ"」という新聞報道でも取り上げられているように、いまだに医療過誤やそれを隠蔽する医療機関や医師はあとを絶ちません。インフォームドコンセントは、今後ますます重要視されてくるでしょう。
セカンドオピニオン
インフォームドコンセントに関連して、「セカンドオピニオン」という言葉があります。直訳すると、「第2の意見」となります。つまり、確定診断や治療方針について、主治医以外の専門医から意見を聞くことをいいます。たとえば、その病気を治すために、主治医から手術を薦められたとします。その時、主治医以外の専門医から意見を聞いて、手術が適切な対応策であるかどうかを判断しようとする考えがセカンドオピニオンです。
インフォームドコンセントで本人や家族が詳細な治療の説明を受けたとします。しかし、本人や家族は医師でないため、説明を十分に理解してから同意に至るケースは少ないといえます。
医師は形式的に説明をすることがほとんどです。しかし患者側の人たちが関連する知識や情報を持ち合わせていなければ、所詮、形骸化した説明で終わってしまいます。そのような時、専門知識を持ち合わせた別の医師からわかりやすい助言が得られれば、どれだけ心強いことでしょう。
今後は、インフォームドコンセントと並んで、セカンドオピニオンに十分応じてくれる医療機関が増えることが医療過誤の減少や、より良い医療に結びついてゆくことになるでしょう。
移植手術の種類
角膜移植には、複数の手術方法があります。大別すると、「全層角膜移植手術」、「表層角膜移植手術」、「深層角膜移植手術」に分けられます。もっとも代表的な全層角膜移植は、角膜上皮、ボーマン膜、実質層、デスメ膜、内皮細胞すべてを移植する術式です。
表層移植は、角膜上皮のみの移植になります。表層移植は、治療的表層角膜移植と光学的表層角膜移植に分類できます。
深層移植は、内皮細胞を残してそれ以外を移植します。この移植はさらに細分化され、部分移植、羊膜移植、幹細胞(ステムセル)移植など、最新の移植技術へと発展してきました。どの術式を選択するかは、疾患によって違ってきます。最終的には医師の判断にまかされます。
全層角膜移植手術
全層角膜移植手術は、上皮、ボーマン膜、実質層、デスメ膜、内皮細胞をすべて移植する手術です。ドナー角膜は、摘出された全眼球保存か移植部位のみ取り出した強角膜片の状態で「オプチゾール」などの保存液で処理されている場合がほとんどです。全眼状態の場合には、角膜パンチと呼ばれる専用器具で、ドナー角膜を打ち抜きます。この時、レシピエント角膜と同径となるように注意が必要です。また、角膜の打ち抜き作業には、熟練した技量が必要になります。センタリング位置を正確に合わせ、角膜の傾きを立体視して水平性を維持したままで打ち抜くことが重要になります。
ドナー角膜が強角膜片に処理してある場合には、保存液から取り出した後、レシピエントの処理した角膜径と同じ大きさに正確に切除してから移植に用います。
次にレシピエント角膜の処理について説明しましょう。まず、ポピヨンヨードで消毒し、まつげを除くドレープ処理をします。次いで、キシロカイン2%とエピネフリンを含有させた球後麻酔を施します。
角膜を切除するために固定します。角膜のセンタリングと水平性を確認して正確なマーキングをします。角膜を打ち抜くためのトレパンを用いて角膜に切れ込みを入れます。このままでは、完全な切除に至らないので、角膜剪刀で移植部位を完全に切除します。
次は、いよいよドナー角膜をレシピエント角膜に縫合する作業に入ります。縫合方法には3種類あります。
①端々縫合
②連続縫合
③①と②の組み合わせ
端々縫合は、少し古い時代の縫合方法です。
近年では、連続縫合も進歩して、8糸連続縫合が基本になりました。これは、8か所を端々縫合して仮縫いとし、その後連続縫合をする方法です。こうすることにより、糸の張力が均一になり、術後の乱視発生も極力抑えられることになります。
いずれにしても、執刀医の技術に依存する術式なので、医師の経験と技量は、術後の生活を決定付ける大きな要因になります。というのは、角膜移植をすると術後に乱視が発生する可能性が高いからです。このことについては、術後の問題で説明します。
さて、縫合作業が終わると、その場で張力調整(アジャスティング)を行います。これは、ドナー角膜とレシピエント角膜が正しく縫合されていないと、術後に乱視が発生するためです。次いで、抗生剤とステロイドを結膜下に注射します。最後に治療用コンタクトレンズ及び眼帯を装用して手術は完了です。
手術中は痛みを抑制するために麻酔をします。全身の感覚は残っていますが、眼に関するすべての痛覚と動きは遮断されますので、痛みはありませんし、瞬目癖(まばたきを頻繁に繰り返す癖)のある人も安心して手術に臨めます。
米国では、眼の部分麻酔の他に、患者さんの希望により全身麻酔で処理する場合もあります。一般的には、部分麻酔である球後麻酔で済ませることがほとんどです。
球後麻酔には、後遺症がまったく無いわけではありません。全身麻酔になるとリスクはさらに拡大しますが、よほどの特異体質でない限り、角膜移植に関する麻酔で問題になるようなことは、まず発生しません。
術後合併症の可能性としては、出血、網膜中心動脈閉塞、麻酔薬血管内侵入、麻酔針による眼球穿孔などが考えられます。なお、麻酔による出血が体質的に止まらない場合には、手術を中止することがあります。
手術時間は、すべてを含めて2時間程度です。なお、原則として、移植手術は特別の場合を除いて、片眼ずつ行います。むろん、患者の希望や医師の判断により、両眼同時手術も可能です。
術後は日米により、若干の相違があります。日本での移植手術の場合、術後1週間程度は入院して様子を見ることがほとんどです。しかし、米国では回復室で休んだ後、帰宅することが許されます。
これは、移植先進国として、数多くの症例を手掛けた結果による判断で、日本での移植との大きな違いです。ただし、翌日診察がありますから、通院の必要はあります。
術後管理で必要なことは、原則ステロイド剤の点眼を守ることです。進行した水泡性角膜症や熱傷、化学症の場合でも、輪部機能が軽度ならば、それほど問題はありません。しかし、ドライアイなどが強い場合には上皮がなかなか安定せず、上皮細胞の剥離などが発症します。その時には、剥離部分を縫合するなどの処置が必要になります。
また、点眼薬などの処置でもドライアイが改善せず、上皮の剥離を繰り返す場合には、涙点プラグを挿入することも考えられます。
全層角膜移植時、患者に白内障の既住症がある場合には、移植手術と同時に白内障手術をすることが可能です。それは経験的に、移植前に白内障があると移植後に悪化する例が多いからです。そのため、医師の判断と患者の希望により、同時手術を行うこともあるのです。
白内障手術は、移植後に別手術として行っても差支えないのですが、手術を一度ですませることができるので、あえて同時手術を提案することもあるのです。
白内障手術には、嚢外摘出法と乳化吸引法とがあります。どちらの術式を選択するかは、執刀医の判断によります。
同時手術時の最大の注意点は、眼内レンズの度数選択になります。それは、ドナー角膜を移植することで、ドナーケラト値(角膜カーブの値)や眼軸長が微妙に変化するので、経験豊かで移植技術に長けた医師でないと、レンズの度数を決定しきれないためです。
同時手術後の合併症を考えると、眼内レンズの偏移、虹彩へのレンズ脱出などにより、眼圧上昇、視力低下などが挙げられます。
表層角膜移植
表層移植を大別すると、治療的角膜移植と光学的角膜移植になります。治療的角膜移植は角膜潰瘍や再発性翼状片、角膜穿孔などの場合に、欠損部分や修復部位を修復する目的から行われます。いわゆる部分移植の範疇に入る移植です。この場合、全層移植とは異なり、表層の部分移植になるので、病変部位が瞳孔領域にかかっていないことが原則となります。
「モーレン潰瘍」や「膠原病」などに合併する「周縁角膜潰瘍」や「角膜穿孔」、「角膜輪部デルモイド」などの角膜の形状異常を伴う疾患には、治療的表層角膜移植を行います。
モーレン潰瘍とは、中年期以降に発症する原因不明の周縁部潰瘍です。強い眼痛や充血を伴います。治療法は確立しておらず、結果的に角膜移植になるケースが多い疾患です。
角膜輪部デルモイドは、胎生期の細胞分化異常から発症するケースが多く、結膜の異常を合併することもあります。悪性化することはありませんが、角膜輪部が盛り上がり、整容状(姿形を整えるの意味)や乱視の発生時に移植が考えられます。
膠原病は、リウマチ性疾患(関節や筋肉に痛みやこわばりをきたす)、自己免疫疾患(免疫異常がみられる)、結合組織疾患(細胞間の結合組織に異常をきたす)の三つが重なった病気の総称です。
全身の血管や皮膚、筋肉、関節などに炎症が見られ、原因不明の発熱や湿疹、関節の痛みなどの症状が共通してみられます。また、主な罹患者は女性で、比較的若い女性の原因不明の発熱として発見されることが多いようです。
光学的表層角膜移植は、角膜中央部に限局する混濁を除去することを目的として行う表層部分移植のことです。軽度の混濁の場合には、エキシマレーザーによる面照射(PTK)で除去できる場合もありますが、重篤な場合には、移植の適応となります。
どちらの表層移植の場合も、術後合併症は全層移植から比べると格段に少なく、拒絶反応や緑内障の発症率が少ないといわれています。
深層角膜移植
深層角膜移植は、全層移植最大の問題点である①~③の改善を目的に確立された術式です。①術後の視力不良
②乱視発生
③内皮細胞減少
切除部位は、病変部を中心に、上皮、ボーマン膜、実質層、デスメ膜までです。内皮細胞は移植せず、レシピエントに残されている組織がそのまま機能します。
深層移植に適応するには、内皮細胞の機能が正常であることが前提条件となりますから、スペキュラーマイクロスコープで内皮細胞数を確認しておく必要があります。また、スペキュラ装置で内皮カウントが不可能な症例には、角膜周縁部の透明性と浮腫が見られないことが診断のポイントになります。そのため、執刀医の経験が本術式選択判断の大きな要因になります。
実際の移植は、表層角膜と実質の病変部位を正確に切除し、ドナー角膜片を欠損部位に縫合する方法をとります。
この時、レシピエントの切除した欠損部位が不整であれば、ドナー角膜片移植後に形成される瘢痕もそれに比例するので、より的確な技術が要求されます。また、ドナー移植片やレシピエントにパンヌス(血管侵入)がある場合には、輪部の侵入血管を焼灼処理することが必要になります。
深層移植後の内皮細胞は、レシピエントのものなので、全層移植のように、術後内皮細胞が急速に減少することはまずありません。
もう一度整理すると、深層移植する角膜部位は、
①上皮層
②ボーマン膜
③角膜実質層
④デスメ膜
までになります。
羊膜移植
羊膜移植は、母体の中で胎児を包みこんでいる胎盤組織の一部を利用し、角膜の代用組織として移植する技術のことです。羊膜組織は日本では今まで、出産後に捨てられていました。しかし、羊膜の働きを研究することで、角膜の代用組織として注目を集めるようになりました。
羊膜移植で使用する羊膜は、帝王切開で胎児が取り出された後、胎盤に付随する羊膜をさします。
羊膜片を作成する方法は、まず胎盤から羊膜を剥離します。次に、この羊膜を完全無菌状態の整理食塩水で洗浄し、滅菌容器に収納します。その後、移植に適した羊膜片の大きさに成型して保存します。一度の帝王切開で、移植片は50~60枚ほど作成することができます。
羊膜移植の優れた点は、組織が母体の中で胎児を守る意味で炎症反応を抑えたり、創傷を治癒させたりする働きが優れていることにあります。また、羊膜には血管がありません。そのため、血管のある結膜組織の細胞増殖を抑える作用も期待できます。
適応症は、翼状片や眼類天疱瘡などの角結膜疾患があります。
翼状片とは、白目の部分組織が異常増殖して、黒目の周囲に入り込んでくる症状です。ふつう、疾患部は鼻側に近い部分で、そこから翼を広げたように少しずつ拡大していくところから名付けられました。中高年に多い症例です。原因は、紫外線に関わっているといわれていますが、はっきりしたことはよく判っていません。
眼類天疱瘡は、眼粘膜で発症した天疱瘡のことをいいます。比較的高齢者に発症し、緑内障点眼治療薬を長期間使用した場合、まれにみられる自己免疫疾患の副作用です。点眼薬の使用を中止し、ステロイド、抗生剤の点眼治療に切り替えますが、あまり有効な効果をあげられていません。そのため、角膜輪部の移植や羊膜移植が注目を浴びています。
羊膜移植は、他の角膜移植手術と違い、次節で述べる幹細胞移植手術と同様、拒絶反応はまずありません。そのため、本移植による手術件数はしだいに増えつつあります。
幹細胞移植
幹細胞とは、生体内のどの細胞にも分化できる能力を持った細胞のことをいいます。幹細胞を培養して角膜組織を作り出し移植に応用したのが「幹細胞移植」です。分化とは、三省堂大辞林第2版によると『生物の発生の過程で、分裂増殖する細胞がそれぞれ形態的・機能的に変化して、役割に応じた特異性が確立していく現象。生物種属のたどる形態変化にもあてはまる』と説明しています。
成人からは成体幹細胞、胚からは胚幹細胞、胎児からは胚生細胞を取り出すことができます。これらの細胞を利用して、さまざまな再生医療が研究されています。
レーザーによる屈折手術の初期、ピーアールケー(PRK)という術式がありました。この術式は、再生する上皮細胞(上皮幹細胞)を除去して、その下にあるボーマン膜から直接エキシマレーザーを照射して、角膜の屈折率を変え、近視・遠視・乱視を治す手術でした。この術式が衰退した理由は、再生する上皮細胞が、再生時にその配列が乱れることで角膜混濁が発生するためでした。
しかし、角膜移植においては、再生する幹細胞が逆に素晴らしい結果をもたらせています。幹細胞移植は、再生するこの細胞の増殖力を利用したものです。移植には、
①自己輪部移植
②家族輪部移植
③ドナー輪部移植
とがあります。
たとえば、自己移植の場合には、罹患部位以外に幹細胞が残っていたり、片眼に疾患がなければ、その部位の幹細胞を用います。この場合には、自己組織ですから拒絶反応はまったくありません。
自己移植の次に拒絶反応が少ないのが家族(兄弟姉妹、次が両親の順に拒絶反応は少ない)からの提供による幹細胞移植です。
自己移植以外の移植を考える場合には、HLAマッチングを考察に入れなければいけません。HLAとはHuman Leukocyte Antigenの略で、フランスの輸血学者ドセー(Dausset)が1954年に初めて発見しました。
一般的なABO式血液型が赤血球を元にした血液型(A、AB、B、O)であるのに対し、HLAは、白血球を元にした血液型のことを指します。臓器移植や骨髄移植などでも、このHLAのマッチングを行わないと、拒絶反応が出てしまいます。
他の臓器移植より格段に安全性が高い角膜移植ですが、幹細胞移植で自己移植以外の選択をする場合には、HLAマッチングが必要になります。
兄弟姉妹の場合にはかなりの高確率ですが、両親の場合にはそのマッチング確率はやや下がります。第三者ドナーからの提供幹細胞になると、マッチングするのはかなり難しくなってきます。そのため、自己移植と兄弟姉妹からの移植がもっとも多く行われています。
